なんか思い出した話。

ウサギ探し 僕が小学生くらいだったときのこと。近所につぶれたホテルが一軒ありました。少なくとも子供たちの間では幽霊が出るなどの噂もあり、ほとんど人気がなくて雰囲気も寂しげで、それがまた噂に拍車をかけていたのでした。
 ある日のこと、僕と友人のAはそのホテルの駐車場でボール遊びをしていました。ホテルの入り口は申し訳程度に封鎖されていましたが既に形骸化して久しく、侵入しようと思えば容易くできるような状態でした。僕とAはしばらく駐車場でキャッチボールや野球の真似事をしていたのですが、やがてどちらかの投げたボールがホテル入り口扉の割れたガラスの穴から中に入ってしまいました。今思えば、中に入る口実を探していたような気もします。
 僕たちは少年らしい見栄から、お互いに「幽霊なんかいないよな。つか、いるなら出てきて欲しいくらいだよな」と言い合うような仲でした。実際、僕は闇への根源的恐怖と廃虚に漂う虚無感や退廃感への嫌悪こそが幽霊話、特に心霊スポットに足を踏み入れたときの恐怖譚、の本質だと考えているような厭な子供でした。要するに怖いと感じることは仕方ないのだと言い訳をひねり出していたのですが。Aがどのように感じていたかは分かりませんが、少なくとも表面上は僕と同様の態度をとっていました。
 結局、僕たちは軽い足取りでボール捜索のためホテル内に侵入しました。幽霊が出るとの噂話が頭に上らなかったわけではありませんが、中を見たいという好奇心がそれをすぐに打ち消しました。ホテルの中は埃は積もっているものの意外にきれいな状態でした。今考えると、廃虚にありがちな暴走族の落書きなどが皆無だったように思います。ほとんど何も残っていないがらんとした状態でしたが、皮の破れたソファや傾いだイスなどいくつかの調度品は残された状態だったと記憶しています。細かい間取りは記憶にありませんが、確か入って右手にフロントがあり奥が左右に分かれた道であったように記憶しています。まず、フロントを横目に奥を右手に曲がって廊下を捜索しましたが、右手はすぐに行き止まりであり廊下の奥には1脚のイスが置かれていました。軽く眺めてもボールは見つからずすぐに振り返って別の道へ捜索に向かいました。反対側の奥は上階へと続く階段室へ繋がっていたと思うのですが、少し進んでそこへ近づいたときに僕とAは同時にあることに気付きました。廊下の途中に1脚のイスが置かれていたのです。先ほど見たイスとおんなじような何の変哲もない木のイスでした。またイスかと思い、何気なく後ろを振り返りさっきのイスを確認しようと、僕は振り返りました。アレ? 僕は自分の目を疑いました。廊下の奥にイスがない。さっき確かに見たのに。動きを止めた僕の視線を追ってAも振り返っていましたが、Aは何も気付かないらしく不思議そうに僕を見返すだけでした。僕は恐る恐るAに言いました。
「さっき、あそこにイスなかった?」
「…あったかも」Aもそこでイスのことに思い至ったようでした。
「そのイスこれだろ?」僕は逆方向の廊下にあるイスを指しました。
 僕たちは黙ってお互いに顔を見合わせた後、一目散にその場を去りました。イスの周りには猫がいたことを何故かよく覚えています。

 

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